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ハリー・ポッターと贖罪の代行者

第1章 Last summer vacation~Harry~


 いや、恐らくは気づいている。気づいていながら、ハリーもクリスもお互い知らないふりをした。
 現に隣に立つクリスの横顔には同情や哀れみはなく、いつもの様に平然としている。いや、むしろ少し微笑んでいるようにさえ見える。
 何も言えずにいるハリーに、クリスはふっと笑って言葉を続けた。

「その顔、さては信じてないな?」
「いいや、そう、言うわけじゃないけど……」
「嘘じゃない、私がまだ小さかった頃に父様がそう教えてくれたんだ」
「クリスの……お父さんが?」
「ああ、私が幼いころ母様恋しさに泣いていると、星空を指しながらそう言ってくれたんだ」

 そう言いながら、クリスは思い出に浸るように目を閉じた。
 似たような話しはハリーも沢山聞いたことはある。だが、約2年前、しかも突然目の前で父を亡くした少女の言葉とは思えぬほど、クリスの声色は穏やかだった。
 励ますためとは言え、大切な人の死さえも微笑み交じりに語ってくれたクリスの思いやりに、ハリーは今までにないほど目の奥がツンと痛くなったが、それを必死に押し込んだ。

「君ってさ、意外とそういうロマンチックな話し好きだよね」

 ハリーが強がりからかってみせると、彼女の紅い瞳が刺すように睨みつけてきた。ホグワーツに入学したての頃は怖かったこの瞳も、もうすっかり慣れっこになってしまっている。
 ハリーは適当に「ごめん、ごめん」と言いつつ、ほんの少し苦笑いをしながら、再び夜空に視線を戻した。

「僕の父さんと母さんも、星になったのかな?」
「当然、今もハリーを見守ってくれているよ」
「……ムーディも?」
「あぁ」
「ヘドウィグも?」
「ああ、もちろんだ」

 さりげなく軽く肩を叩くようなその言葉の音色に励まされ、涙腺がゆるんだハリーはたまらず下を向いて唇をかみ締めた。
 クリスの言葉はいつも不思議な自信に満ちているが、この時ほど彼女の力強さに救われたことはない。
 ずっと悩んで苦しんでいたことへの力強い励ましに、ハリーは下を向いたままバレないように手で涙をぬぐい、わざと大きな笑い声で言った。
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