第4章 【果てしなく続く青空】
シリウスがジッとルーピン先生を見詰めていると、ルーピン先生は観念したように視線をそらしてため息を吐いた。
「ああ、分かった、白状しよう。彼女の傍にいるのが不安なんだ」
「だろうな、お前は昔からそういうヤツだった」
「どうして?脱狼薬だってあるでしょう?」
「そうじゃなくて、その――彼女は妊娠しているんだ」
『妊娠』、その一言に、クリスの思考が停止した。本来なら喜ぶべきなんだろうが、声1つ出てこない。
止まったモノクロの世界の中で、ハリー達がおめでとうと言っているのを遠くから見ているような気分だった。
ショックのあまりクリスは暫しボーっとしていたが、ここで1つの疑問が浮かんだ。
「……それじゃあ先生、お子さんはどうするんですか?」
「クリス?」
「父親として、傍にいるべきじゃないんですか?」
「それは……」
「ちゃんと答えて下さい、ルーピン先生!」
魔法界では一般的に、狼人間は大抵伴侶を持たないとされる。それは自分の子供に狼人間としての血を受け継がせないためだ。
けれどずっとずっと、トンクスよりずっと長く先生を見てきた自分なら分かる。狼人間である先生は、妻と子を深く愛している。だからこそ傍に居るのが怖いのだ。
クリスの知る中で、先生は誰よりも優しい人だ。
だからこそ、クリスは先生にそんな悲しい選択はしてほしくなかった。
「先生の……ルーピン先生の臆病者!!」
クリスは感情の高ぶりから、声が涙声に変わり、震えていた。
実際のところ、クリスに狼人間の苦労がどれ程のものなのか分からない。
今言っている言葉も、正直ただの綺麗ごとに過ぎないだろう。
だけど、それでもルーピン先生には、そんな風に自から幸せを手放す様なことはしてほしくなかった。
クリスは下唇をかみしめながら、ギュッとルーピンのローブを掴んだ。