第21章 【ファム・ファタール】
ハーマイオニーはそう言ったが、強がっているのも分かっている。クリスとしてはどうにか両者とも傷つかない方法を選択したかったが、こうなってしまったのならば仕方がない。
クリスは全員に目配せすると、召喚術の杖を構えた。
「みんな頼む、精霊を召喚するまで時間を稼いでくれ」
「OK!まかしとけ!!」
「それじゃあ共闘と行きましょうか、マルフォイ?」
「火傷くらいで僕の足を引っ張るなよ、グレンジャー!」
そう言う傍から、キメラがドラコ目掛けて再び突っこんできた。ドラコはそれに盾の呪文を唱え、さらにハーマイオニーは放水車のように大量の水を杖先から発射させた。
さらにその上から、ロンが積みあがっていた机を落っことした。
それを見たクリスは、うまい具合に連携が取れているのを感じ、安心して目をつぶって呼吸を整えると、精霊召喚に心を集中させた。
「 水底に眠る 清廉の乙女よ 」
――この時、クリスはパンジーとの日々を、まるでぐるぐる回る映写機を眺めるように思い出していた。
喧嘩が始まると、いつもドラコが調停役として間に入り、下らない口喧嘩をいさめてくれていた。そう、いつだって2人にとって、ドラコは無くてはならない存在だったのだ。
「 古より伝わりし 血の盟約において汝に命ず 」
繰り返す思い出の中、口喧嘩に勝てる時もあれば、負ける時もあった。そんなやり取りを飽きずに12年間以上やり続けてきたのだ。本当にカルマがあるとすれば、刻みつけられるべくはドラコではなく、自分の方なのかもしれない。
そう思ったらなんだか可笑しくて、クリスはついクスッと笑ってしまった。
「 ――わが友を救いたまえ!出でよ、ウンディーネ!! 」
クリスがそう叫ぶと、今まで召喚してきた中でも特に美しいウィンディーネが現れた。
ヒレのようなドレスの裾がユラユラとひるがえり、その身体は涼し気な水の様にきらめいていた。
「……なんて美しい」
「って、見惚れてる場合じゃないわクリス!!」
「早くあの化け物をやっつけてくれ」
「分かった!じゃあ3人とも、私とウィンディーネが前に出るから、皆は後ろに下がってくれ!」