第21章 【ファム・ファタール】
あれはたしか、まだクリスが6歳くらいの頃だった。詳しいことは忘れたが、確か純血主義の家の子供たちと集まって遊ぼうとした時、パンジーが、まるでクラッブとゴイルを従えたドラコのように、他の女の子達を後ろに従えてこう言った。
「今日はお母様と一緒に買ったお人形でしか遊べない日なの。だからあなたとは遊べないわ」
そう言って笑ったパンジーの手には、見るからに高そうなフランス人形が抱えられていた。だがクリスの手にあったのは、ナルシッサおば様と一緒に選んで買ってもらった大きなテディベアだった。
悔しさのあまり唇をぎゅっと噛み、その場から立ち去ろうと踵を返したクリスだったが、おもむろにクルッと振り返り、有頂天のパンジーにこう尋ねた。
「なあ、お前がその手に握っているのは、お母様と一緒に買ったお人形なのか?」
「そうよ、フランス人職人が作ったものを特別に輸入したんだから!」
「な~んだ、サルが大事そうに抱えてるから、人形じゃなくてバナナかと思った」
そう言うと、パンジーが起こってキーキーわめき出したので、クリスはくっくっくっと笑いながらその場から立ち去った。
【第20話 ファム・ファタール】
「や~っぱりね。貴方ならここを選ぶと思ったわ。ねえ、ド・ラ・コ?」
パンジー・パーキンソンは、まるで女王の玉座のような赤いビロードの布をかぶせた机の山から降りると、不敵な笑みを浮かべながらゆっくりドラコに近づいた。
まるでクリスもロンもハーマイオニーも、この部屋に存在していないかのような素振りだ。
「貴方のことなら何でも分かるわ。だってこのキャビネットを直す手伝いもしたし、このヴェールの上で体を重ねたこともあったものね?」
ねえ、覚えてる?とパンジーが言った。
忘れられる訳がない。ドラコは苦々しい過去を懺悔するように目を伏せ、これまでの自身の行動を詫びた。
「……君には悪かったと思っている、パンジー。だか今は君にかまっている時間はないんだ」
「ふざけないでっ!!!」
その瞬間、パンジーの目玉がまるで獣か何かに取り憑かれた様に、ギョロッと飛び出した。
かと思ったら、次の瞬間にはまた夢見る乙女のようなトロンとした目に戻り、少し背伸びをしてドラコの首に自分の腕を絡めた。