第20章 【ロンの閃きとキャビネット】
「――よし、それじゃあこれを『漏れ鍋』へ運ぼう」
もう、ここまで来たらやるしかない。毒を食らわば皿までだ。
皆で黒いローブを目深にかぶると、陰鬱としていたノクターン横丁から、『漏れ鍋』のゴミ捨て場まで、迅速かつ慎重にキャビネットを運んだ。
ここから先は、敵の陣地だ。何が待ち受けているか分からない。
「それじゃあ、僕が斥候を務める。異存は?」
「ないわ、それじゃあ私がしんがりを務めるわ」
「それじゃあ僕らは……」
「……適当ってことで」
こういう時に限って、役目が何もないのも寂しいものだ。
ロンとクリスは互いに言葉にならない寂しさを分かち合い、互いに背中を叩いた。
「良いか?僕が潜入して、無事だったら中から合図をする。それまでは絶対に扉を開けるなよ?」
「分かったわ」
「くれぐれも気を付けろよ、ドラコ」
「ああ、分かってるさ」
そう言って、ドラコはキャビネットの中に入っていった。
キャビネットの中は暗く、扉を開けたままでは何も見えないし、何の音も聞こえてこない。あるのは完全なる暗闇だけだった。
クリスはドラコの合図が来るのを、そわそわしながら待った。すると中から小さくドラコの合図がしたので、クリスはホッと安心してキャビネットの中に入った。
するとそこは見たことがないくらい広く、強いて言うならサン・ピエトロ大聖堂くらい厳かで美しかった。
だがそれに反して、見たことがないくらい多くの物が雑然と積み上げられ、ガラクタで出来た巨大な迷路のようになっていた。
それらを眺めていると、ロンとハーマイオニーが順番にキャビネットから出て来た。
「広いわね、大広間とどちらが広いかしら?」
「まさかホグワーツにこんな所があったなんてな」
「ほ~ら、やっぱりここを選んだ。貴方の行動なら何でもお見通しよ。ねぇドラコ?」
突然聞こえて来た甲高い声に、クリスは素早く辺りを見回した。するとどこに隠れていたのか、雑然と積み上げられていた机の上に、赤いビロードの布のような物を敷き、足を組んでほくそ笑むパンジー・パーキンソンの姿がそこにあった。