第20章 【ロンの閃きとキャビネット】
ハリーの言いたいことは分かっている。分かっているが、ヴォルデモートが本格的に攻めてくる前に、分霊箱を破壊できる絶好のチャンスなのだ。この機を逃すわけには行かない。
するとシリウスがやってきて、ハリーの肩に腕を回して豪快に笑った。
「どうだ、ハリー?グリモールド・プレイスにいた時の俺の気持ちが分かったか!?」
シリウスがそう言うと、ハリーは苦々しげに「本当にね」と、ふて腐れながら言った。
そう言うシリウスも、あと2、3時間もしたらアジトで最終決議が行われ、ホグワーツに向かう手はずになっている。
確かにこの状況で、1人でジッと待っていろというのは、今のハリーには拷問よりも辛いかもしれない。しかし碌な杖もなしにヴォルデモートと戦う事の愚かさが、どれほどのものかも承知していた。
「それじゃあハリー、私達は先に行くけれど、無茶だけはしないでね」
「分かってるよ」
「じゃあなポッター。日刊預言者新聞に載れるよう、今から祈っておくんだな」
ここぞとばかりにハリーを煽るドラコに、クリスは後ろから蹴りを入れた。
「バカの言うことは気にするなハリー。君と君の杖が、幸運を運ぶことを信じてるよ」
「う、うん。ありがとうクリス」
思いがけないクリスの真っ当な励ましに、ハリーは少し気恥ずかしさと共に少しだけ元気が出てきた。
「それじゃあみんな、準備は良い?」
ハーマイオニーとロンと、それとクリス、最後にドラコが手を握ると、一気にノクターン横丁の入り口に『姿現し』した。
* * *
ノクターン横丁は以前から不気味な感覚を醸し出していたが、今はそれすら可愛く思えるくらい陰気で、重たい空気が充満している。
そればかりか、今が日中だなんて信じられないほど、辺りは闇の気配に覆われていた。
「……よし、それじゃあ、行くわよ!」
「いや、少し待て」
ノクターン横丁と書かれた金のプレートを前に、ドラコは杖を皆の頭上に掲げ、長い呪文を唱えながらそれぞれの頭に粉を降りかける様に杖を振った。
「今のは?」
「簡単な防御魔法だけれど、無いよりはましさ」
「おっどろいたー!!あのマルフォイが僕らに防御魔法だってさ!!」
「ヘマをして足を引っ張られたくないだけさ。ここには呪いに弱くて、僕らに攻撃を仕掛けてくる馬鹿が居るみたいだからな」
