第2章 【嵐轟く結婚式】
『古より、銀は魔を祓うという。これを贈った儂のことを思い出し、毎日丁寧に手入れをしてほしい』
この一文を見て、一瞬、ほんの一瞬だけクリスの表情が変わった。そしてそれを見逃すほど、スクリムジョールは甘くなかった。
流石に元とは言え闇払い部の局長だ。微々たる気配の察知にも優れている。
「どうしたんだ?まさかとは思うが、その腕輪にはなにか細工がされているのか?」
「いいえ、特に何も。気になるようでしたら直接ご覧ください」
スクリムジョールはクリスが何かしらの情報を握っているとにらんだ様だ。確かに間違ってはいないが、それをそのまま伝えてやる気はさらさら無い。
クリスはいつもの様に悪戯っぽくニヤリと笑うと、スクリムジョールの目前に、腕輪と一緒に闇の印をさまざまと見せつけた。
「どうぞご覧になって下さい、大臣」
またいつもの悪い癖で、クリスは下弦の月のように赤い唇でニコリ笑った。すると元・闇払いでもあるスクリムジョールは、意図せず反射的に闇の印がほどこされたクリスの手をはじいた。そのあまりの予感的中の行動に、クリスが思わずフッと鼻で笑ってしまった。
こんな小娘に良いようにバカにされたスクリムジョールは、怒りながら今度はハリーに照準を変えた。
「ハリー・ポッター、君への遺贈品はこれだ」
眼鏡の副官から差し出されたのは、箱に入った黄金のスニッチだった。羽が折れているのか、ジグザグと変な飛び方で部屋の中をフラフラしている。
これはおかしい、普通のスニッチなら目で追いかけられないほど素早く飛び回るものだ。それくらいクィディッチ嫌いのクリスでさえ知っている。
スクリムジョールの副官が変な動きをするスニッチを捕まえ、箱に収めた。その間、ハリーはずっとスニッチを目で追っていた。
「これは君が1年生の時、初めて取ったスニッチだ」
「僕が……?」
クィディッチにはルール上、公正を期すためスニッチに『肉の記憶』というものが与えられ、最初に触れた選手が誰なのか、ずっと記憶しているらしい。
だからこうして万が一を考え、手袋をしているんだ。と、眼鏡の副官は真っ白な手袋を強調した。