第2章 【嵐轟く結婚式】
吟遊詩人ビードルとは、イギリス魔法界ではもっともポピュラーなおとぎ話などを綴った、云わばマザーグースのようなものだ。
当然クリスだけでなく、ロンも良く知っている。そして当然、スクリムジョール大臣も知っているはずだ。
さて、ここからどう巻き返すべきか……。
「さてミス・グレンジャー、この本を遺贈品として送られた理由は?」
「これは私がホグワーツに入学したとき……友達のいなかった私に、ダンブルドア先生が私にこの本を貸して下さったんです。この本には、魔法界の良いところがいっぱい詰まっているって。だからきっと君も気分が晴れるだろうと……」
ハーマイオニーは震える声でそう言ったが、そんな話し今まで聞いたことがない。
本の表紙に顔をうずめてしゃくり上げているハーマイオニーを横目でちらりと見たが、涙の1滴すら流れていなかった。
それを見たクリスはハーマイオニーの演技力と豪胆さに絶句した。
いつまでも泣き続けているハーマイオニーに、スクリムジョールは呆れて言葉を失い、ソファーに深く腰かけた。
スクリムジョールとしては突然の訪問に紛れて、何かダンブルドアから受け継いだ秘密の情報がないか聞き出そうとしたのだろうが、残念ながらそう上手くはいかなかった。
「……すまないが、水を一杯頂けないか?」
その声を受け、ロンがパッと立ち上がってキッチンへ向かった。
それにしても目の下の酷い隈をみるからに、大臣自身も相当苦労しているのだろう。
だがこちらとしても、魔法省のためにハリーと一緒になって反ヴォルデモートを掲げる為の丁度良いマスコットになんてなりたくない。
ああだこうだと言っている内に、疲れ果てたスクリムジョールがスッと手を挙げ、隣にいた眼鏡の副官に手頃な大きさの箱を取り出させた。
「これはミス・グレインへだ、開けてみたまえ……」
何だろう……自分もロンやハーマイオニーほどではないが、あまりダンブルドアと親しい間柄ではなかった。ただ1つあるのは、ドラコのことだけだった。
何かドラコに関する事だろうか。そう期待を寄せながら箱を開くと、中には何の変哲もない銀磨きセットが入っていた。また箱と一緒に入っていた便箋には、ダンブルドアだと思われる、細いペンでメッセージが記されていた。