第14章 【ゴドリックの谷】
「シリウス、現地調査なんて早く終わらせよう!」
「いや、悪いがもう少しだけ待っててくれ。奴が本当にハリーと戦ったなら、魔力の残滓が残っていてもおかしくないんだが……」
シリウスはブツブツ言いながら、半分瓦礫と化した家を調べていた。クリスも見よう見まねで瓦礫まみれの庭を探索していたが、ハッキリ言って退屈の極みだった。
だが、こういう地味な仕事の積み重ねが不死鳥の騎士団の成果につながるのだと思うと、思わず感嘆のため息がこぼれた。
「待たせたな、それじゃあ次に行こうか」
「次?ここ以外にも調査する場所なんてあるのか?」
「ああ、ついてくれば分かるさ」
バチルダの家から、シリウスは町の田園の方に向かって歩き出した。曇天の雪道は融けた雪が凍り付き、油断するとすぐ滑って転びそうになった。
「転ぶと危ない、手をつないでいようか」
ギュッとシリウスの手を握ると、かすかに震えていた。不思議に思ったが、問いかける前にその理由はすぐに明らかになった。
「……着いた、ここだ」
着いた先は、瓦礫と伸び放題の雑草だらけの空き地だった。いや、一見そう見えただけで、此処こそが、全ての始まりである、『ハリー・ポッター』の家だった。
横目でシリウスの顔を窺うと、寂しそうな、それでいてどこか慈しむ様な表情をしていた。
「君と来て良かった。私1人では、きっと取り乱していたと思う」
哀愁漂うシリウスに、クリスは何と声をかければ良いのか分からなかった。
シリウスがゆっくり門の取っ手に触れると、荒れ地となった庭の中ほどから、まるで植物のように木製の看板がぐんぐん生えてきた。
――1981年10月31日、ここが『死の呪い』を受けても生き残った男の子、ハリー・ポッターが暮らしていた家である。この奇跡と悲劇の両方を忘れない様、この建物はその当時のまま保管され――
この看板のあちこちに「俺達は元気だぜハリー!」とか「ハリーの無事を祈ってるよ」などハリーを応援する様なメッセージが幾つも刻まれていた。。
これを見た時、クリスは心に温かいものがぶわっと満ちていくのを感じた。