第14章 【ゴドリックの谷】
クリスはシリウスも同じ気持ちだろうと、安易にシリウスの方を振り返った。しかしシリウスは眉間にしわを寄せ、色々な感情を耐え忍ぶような顔をしていた。
……あぁ、そうだ、当たり前だ。この場所は親友が亡くなった場所でもあるのだ。しかも、自分の失態で。きっと今、シリウスの中には色々な感情が渦巻いているのであろう。
クリスはメッセージを残すことを止め、握っていた手を、さらにギュッと握った。
「ありがとう、クリス。君は優しいな」
「いや……そんなことないよ」
それから2人でポッター家のお墓にも足を運んだ。お墓の上には雪が積もっていて、シリウスはそれらを手でサッサッと落とすと、今度は杖を取り出し、墓前に魔法で百合の花束を作って添えると、自分も墓前にしゃがみ込んだ。
「……来るのがずいぶん遅くなって悪かったな、プロングス。お前が死んだなんて、俺には未だに信じらんねーよ」
まるで学生時代に戻ったかのよう話すシリウスの横顔には、笑顔の裏に隠された寂しさが漂っていた。その何とも言えない表情に、クリスは心が突き刺された様に痛んだ
シリウスは強い人だけれど、同時に脆い人だというのは良く知っている。クリスはシリウスの背後に回ると、表情が見えない様に後ろからそっと抱きしめた。
「あぁ、そうだ。ハリーのことは心配するなよ。俺が命に代えても守るからな」
そんな風に、シリウスがぽつりぽつりとお墓に向かってと独り言を呟いていると、気が付いた頃にはもう夕方に差し掛かっていた。
最後に十字を切って手を組むと、シリウスは「いつもの顔」に戻っていた。
「さて、これ以上遅くなると危険だ。もう帰ろうか」
「あぁ……そうだな。ドラコも待っているだろうし」
あの瓦礫の山と化した生家に、ハリーは訪れたのだろうか。もし訪れていたとしたら、あの看板を見て、ハリーは何を感じたんだろう。
荒れ果てたハリーの生家を思い出しながら、クリスは誰かが自分の帰りを待ってくれているという事が、どれほど幸せなことかを思い知らされた。
「なあシリウス、良ければドラコにお土産を買って帰らないか?」
「そうだな、何か温かいものを買って帰ろうか」
そして来た時と同じようにクリスはシリウスの腕につかまると、『姿くらまし』を使ってゴドリックの谷を後にした。