第4章 居酒屋
「そうだよ…後から母さんに聞いた話だと、親父は他所に女を作ったらしいんだ。それで、その女の所に行ったんだよ…」
その話をするとトオルはとても悲しい顔をしていた。
この一見するととても明るい青年は少年の頃にこんなにも苦しい思いをしてきたのか。
私は、その話を聞いてそう思ったものだ。
「それは、辛かったわね…」
「うん、とても悲しかったし、悔しかったけど俺は親父みたいになりたくないと思ってさ…」
そう言うと生ビールを一口飲んだ。
「そうなのね…」
「だから、俺は今いる彼女を幸せにしたいと思ってるんだ…」
彼女への想いを聞くと、私は何となく辛くなってくるのだった。
私は自分の冷酒を口に運んだ。
トオルには彼女がいるのだ。
この時、改めてそう感じた。
そんな私の様子を見ていたトオルがこう言ってきた。
「美都…」
「なに?」
「そっちの席にちょっと行ってもいいかな?」
「え?」
私はその言葉を聞くとちょっと緊張してしまった。
私の隣の席に座りたいと言ってきたのだ。
「ダメかな?」
「大丈夫よ…さ、こちらに来て…」