第3章 一人の男と一人の女(顕如)
「また来ていたのか?」
「はい!今日はお礼を!」
某かの、理由をつけて、しょっちゅう隠れ家に来ていた。
あまり気にしていなかったが、来れば少しだけ昔の気持ちを取り戻している自分に気づいた。
「また来ます」
「勝手にしろ」
そんなやり取りにも少しずつ癒されていたのに、信長の寵姫と知ってからは心を許した自分が許せなくなり、を拒絶した。
(違う!私は!顕如さん話を聞いて)
それでもまぁ、のこのこと、がやってきたので錫杖を抜きその鈍く光る切っ先を白く細い首に触れるギリギリまで持ってきた。
もう鬼と化した自分を止められない。
刃先が少し触れてしまったらしく、の首筋から赤い血が流れている。
深い傷ではないが、彼女を傷つけた自分自身が痛く、もっと深く傷ついた。