第5章 忘れ物
ーーー性別を変える薬を定期的に飲み直しては、カラ松くんか十四松くんとキスをして元に戻る。
そんな生活を初めてから約一週間が経過した。
松野兄弟とは、基本的に春馬の時にしか関わらないから、今のところは、誰も春奈のことを好きになっていないと思う。
学校では、あんまりみんなと喋る機会がないからね。
「…先生、ごめんなさい、シャーペン忘れちゃいました…」
「友達に借りなさい」
「と…友達…?」
涙目になりながら椅子から立ち上がったトド松くんが、私の背後で戸惑いながら「友達…」と独り言を呟いている。
このクラスにはチョロ松くんがいないので、きっと彼は誰に頼ろうか迷っているのだろう。
まぁチョロ松くんがいなくても、ここにはおそ松くんと十四松くんがいるから、大丈夫だろうけど…。
「…おそ松兄ちゃん、あの」
「俺シャーペン1本しか持ってないから、他当たってくんね」
「……十四松兄ちゃん」
「ごめんトド松、俺もシャーペン持ってない」
「………」
こ、断られちゃってる。
兄が二人もいるのに、二人に断られちゃってるよ、トド松くんが。
可哀想に…。
他に友達とかいないのかな。
休み時間とか、いつも隣のクラスのチョロ松くんにベッタリだから、同じクラスに友達がいるイメージはあんまりないけど…。
友達がいなくて、誰からも借りれなかったとしても、困った時は先生が貸してくれると思うから、私が心配しなくても大丈夫か。
「…ん?」
誰かが、私の肩を指か何かで優しくツンツンしているような気がする。
なんだろう?と思い、振り返ってみると、そこには涙を流しながらしょんぼりしているトド松くんがいた。
あれ、もしかしてトド松くん…。
「…シャーペン貸して、おねがい」
「え…」
わ、私…!?全然いいけど、なんで私…!?
「ど、どうぞ!」
「ありがと…」
焦りつつも、私は筆箱から予備のシャーペンを取り出して、トド松くんにそれを手渡した。
トド松くんは私のことが苦手だから話し掛けてこないのかなって思ってたけど、意外とそんなこともないのかな。
まぁトド松くんの悩みは無事に解消できたことだし、私も授業に集中しようーーー
ーーーと思っていたのに。