第3章 ファーストキス
例の松野くんは夜の狼だから、六つ子達とはそういう雰囲気にならないように気をつけようと思ってたのに、私から変なことを仕掛けてどうするんだ。
まったく…カラ松くんが困っちゃってたじゃないか…。
「…立花、お前カラ松兄さんに変なことしただろ」
「え"…」
銭湯からの帰り道で、十四松くんが鋭いことを言うものだから、私は思わず手に持っていた荷物を床に落としてしまっていた。
あ、私の下着が地面に…!!
「何したんだよ」
「な、何もしてないよ…!」
「嘘つけ、カラ松兄さん、また顔がトマトみたいになってただろ」
「"なってただろ"と言われましても…私は何も見えてなかったから…」
そ、そうなんだ。トマトみたいになってたんだ…。
十四松くんと比べて、カラ松くんは私のボディタッチにかなり敏感だから、もしかしたらカラ松くんが例の松野くんなのかもしれない。
…いや、あんなに分かりやすかったら、さすがに鈍感でも分かるか。
じゃあ誰なんだろう…。
「…どこ触ったんだよ、もしかしてカラ松のちん」
「ちちち違う違う!!触ってないから!!」
「じゃあどこ触ったのか言ってみろよ!おい!」
な、なんで喧嘩腰…!?
十四松くん優しいと思ってたけど、ちゃんと不良な一面も兼ね備えてるじゃん!!
怖すぎるって…!!
「た、多分〜…お腹…とか…?」
「…はぁ?お腹ぁ?」
「ウ、ウン…柔らかかったから!」
「カラ松兄さんの腹、そんなブヨブヨじゃないだろ」
「そ、そうだったっけ…」
あれ、もしかして墓穴掘っちゃったかな。
もう時すでに遅しだけど、変に「柔らかかった」とか言わない方が良かったのかもしれない。
まだ硬かったって言ってた方が…いや、それはそれで意味深だからダメか…。
じゃあなんて言えばよかったんだろう…。
「い、意外と触ってみると柔らかいものだよ、お腹って…」
「俺の腹は柔らかくねぇし、鍛えてっし」
「まぁ十四松くんのは確かに硬そうだよね、よく動いてるから」
「触ってみるか?」
「うん!……うん??」
い、今…なんて言った…??
触るって、十四松くんのお腹をってこと…!?
流れでつい適当に「うん!」って言っちゃったけど、絶対に断るべきだったよね、これ。
もしかして、自慢したくなるほどムキムキなのかな、十四松くんって…。