第6章 霞柱との休息 新型の釜
が天元の屋敷運び込まれてから丸一日後。
「はっ…」
霞柱、時透無一郎はまだ夜明け前にも関わらず、一人広い庭先で素振りをしていた。
任務明けそのままに鍛錬しているのだ。
その動きは洗練されていて美しい。
燃えたぎるような怒り、悲しみ、憎しみ。
例え過去の記憶を無くしても消えない感情は、刀を握る血管の浮いた手に強く込められている。
無一郎は記憶障害がある。
だが、先日の柱合会議の事は部分的に思い出すことができていた。
そして今もその時のことを思い出している。
月柱と名乗ったあの女。
無一郎の攻撃を簡単に止めた挙句、刀を弾き飛ばす力。
体格もさして自身と変わらず、むしろ無一郎の方が筋肉量はかなり優れているはず。
女だとなめてかかっていた訳ではない。
強さは一目見て分かった。
それでも刀を弾かれた事に無一郎は唇を噛んで悔やむ。
ーいや、問題はそこではない。
自分と目を合わせておきながら、自分ではない誰かを見ているような感覚。
ーこの上ない屈辱だ。
「…まぁいいや。避けてるしあの変な戦国女とは会うことも無いだろうから」
無一郎はそう呟き、そこから数時間夢中で素振りを行った。
ー…
「…ふぅ」
日がのぼり、近所から朝食の匂いがしてくる。
その匂いにお腹の虫が鳴り、無一郎はやっと鍛錬の手を止め、額の汗を拭う。
井戸水をすくって手拭いをつけて濡らし、体も丁寧に拭く。
「…何処かに食べに行こうかな」
さっぱりした無一郎がそう言って出掛けようと屋敷の門へと向き直った時だった。