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愛を紡いで呪いを断つ

第1章 呪言


鬱蒼としている夜の森。
木々の葉を幻想的に照らすのは月明かり。


普段なら静かなその森の空気を
切り裂く勢いで走る1人の侍がいた。













「はぁっはぁっ…くっ…」


一つに束ねた長く艶やかな髪が左右に大きく揺れる。
汗が顔に流れ落ちるのも気にせず、
無我夢中で走る中性的な顔立ちをしたその侍は、腰に添えた刀の柄に手をかける。
















「はぁっ…いるっ…近い…!」

ギリっと歯を噛み締め、抜刀する。


「!」

侍は驚いた顔で突然立ち止まり、気配を探るようにし周囲を睨みながら刀を構える。


呼吸は酷く浅く、走った後だからというよりも、強く緊張している時の呼吸のようだ。


侍の呼吸だけが静かに響く。

「………」

長い間の後、侍の呼吸が少し落ち着いたように深くなったその刹那だった。













「久しぶりだな…」

「っ…」












闇に響く重低音の声。

聞いた者全てが恐怖に慄くようなその声色に、
侍は息を呑む。




侍は全く感知出来ていなかったようだが、声の主はと呼ばれた侍の真後ろにいた。











だがは心を落ち着けるように目を閉じ、一つ息を吐くと目を開けて視線を後ろに向けるようにずらす。









「……お久しぶりでございます………黒死牟様」










黒死牟様、と呼ばれた重低音の声の者もまた侍の格好をしている。








しかしその風貌は到底人間とは呼べず、素人が見れば失神してしまうほど悍ましかった。
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