第1章 プロローグ
龍輝「それは昔のことです。
でも佐助さんや蘭丸さんと遊んだ経験は、今に繋がっていると俺は思っていますよ」
蘭丸「呼び方まで変わっちゃったし。昔は『蘭丸君』って可愛く呼んでくれたのにな」
蘭丸が唇を尖らせ、龍輝が困り果てた時、木々がざざっと揺れて佐助が現れた。
龍輝「佐助さん、おかえりなさい。どうでしたか?」
佐助「遅くなってすみません。信玄様と幸村は無事国境を越えました。
信長様に報告しに来たんだけど、俺の方が早く着いてしまったかな」
蘭丸「信長様はもうすぐ来るよ。信玄殿達は他国の情勢視察だっけ?いつ頃戻る予定なの?」
ここから馬で3時間以上もかかる国境を行き来した割に、佐助の表情に疲れの色は無かった。
佐助は蘭丸とは違う枝に陣取り、体重でしなっている枝に慌てるふうもなく無表情で話を続け、これまた部隊の者から尊敬の目を集めている。
佐助「今回は長くなりそうだって言っていたから、最低でも半年は戻って来ないんじゃないかな」
蘭丸「そっかぁ」
龍輝「信玄様と幸村様のコントが見られないと思うと寂しいです。
では俺はこれで」
木の下では短い休憩時間が終わり、龍輝が部下達に指示を出し始めた。
佐助「時々龍輝君が謙信様に見える時があるよ」
顔立ちは子供の頃から似ていたけれど、声変わりをしたら声まで謙信にそっくりになった。
まだ少年っぽさが残っているため区別できるが、成人になればわからなくなりそうだ。
蘭丸「でもさ、やっぱり様に育ててもらったから謙信殿より断然優しいよね」
龍輝「そこっ!!頭をさげろっ!」
誤って仕掛けを踏んだ男が反射的に頭を下げると、間一髪で木の幹に矢が突き刺さった。