第1章 プロローグ
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その頃、主が居なくなった部屋に居ても仕方がないと、きゅー助がベッドの上で伸びをしていた。
朝食がないと言われたのを理解しているようで慣れた足取りで部屋を出ていく。
小走りしても絨毯の上なので足音はしない。
空いている窓を見つけて外に出ると、広い花壇を横切って隣の建物に向かって歩いていく。
明かりの灯っているエントランスは用がないと言わんばかりに通り過ぎ、東向きに大きな窓がある場所でニャーンと鳴いた。
すぐに窓が開き、そこから薄茶の髪色をした16,7歳の女が顔を出した。
結鈴「おはよう、きゅー助。光秀さんったらまたご飯をくれなかったのね?おいで」
『ニャ』
結鈴が身体をどけると、きゅー助はジャンプして窓から室内に入った。
食べ終わった二人分の食器を使用人が片付けている最中で、結鈴と瑞穂の食べかけのお皿がテーブルに乗っていた。
瑞穂「きゅー助、おはよう」
白いシャツに膝までのズボンを履いた瑞穂がお行儀よく挨拶した。
ちょうどパンをちぎったところのようで、左手にはこぶし大、右手に一口サイズのパンを持っている。
結鈴「こんなにしょっちゅうご飯を抜かれたら、キュー助も困っちゃうよねぇ?
私達がこっちに来るまではどうしていたの?」
そう聞かれてもきゅー助は『にゃーん』としか言えない。
結鈴は一度食堂を出て、きゅー助の食事を持って戻ってきた。
週に何度もあることなので当たり前のような顔をしている。
薄茶の髪は腰まで綺麗に伸びていて、編み込んだ髪を白っぽい織紐で結んでハーフアップにしている。
身長は大人の女性と変わらないが、頬や顎のラインにまだ少女っぽさを残している。
子供と大人の狭間に居るような可愛らしい容貌だ。
結鈴「はい、どうぞ!私達もまだ途中なの。一緒に食べよ?」
結鈴と瑞穂の椅子の間にきゅー助のご飯が置かれた。
ムシャムシャと食べ始めたきゅー助を見ながら結鈴はナイフとフォークを持った。
結鈴「今日も光秀さんは素敵だった?」
きゅー助は顔をあげて『にゃ?』と首を傾げ、またご飯を食べ始めた。
瑞穂「光秀さんの格好良さが日替わりで変わるわけないでしょ、お姉ちゃん」
結鈴「ふふ、そうなんだけどつい聞きたくなっちゃうんだ。
きゅー助、いっぱい食べてね」