第1章 プロローグ
?「さて、いってくるぞ」
まだ夜明け前だというのに、部屋の主は仕度の最後に編み上げの軍靴(ぐんか)の紐を結び、相棒に声をかけた。
ベッドで丸くなっている猫が、低い声に反応して耳をピクピクと動している。
?「お前の寝床はあっちに用意してやっただろう?」
男の視線の先には新調したまま使われた形跡のないカゴ。
中には寝心地が良さそうな布が敷かれている。
キジトラの猫はまるで「ふん」というように顔の位置を動かした。
男は怒る様子もなく何度か猫の額を撫でた。
?「悪いがお前の朝食を用意していない。『あいつ』の所に行けば何か用意してくれるはずだ」
潤った低い声に猫が不満そうに片目を開けて、またすぐに閉じた。
?「夜は一緒に食べてやる。良い子で待っていろよ、きゅー助」
ここぞとばかりに『にゃー』と返事をした飼い猫に、男…明智光秀は笑いをこぼした。
着ている白い軍服には高位の者や、成果を挙げた者に与えられる勲章の類は一切なく、一卒の兵士のようだ。
腰には日本刀ではなくショートソードを提げ、腰のホルターには短銃が入っている。
光秀「ふっ、現金なやつだ。いってくるぞ」
きゅー助がお腹の肉を動かすと、グウと音が鳴った。
きゅー助なりに返事をしたつもりのようだ。