第25章 懐玉
「……悟?」
教室に戻るとなぜか悟がいた。
机に突っ伏したまま、目線だけを私に向けると気だるそうな声を上げた。
「おせーよ、傑。何してたんだよ」
「何って……。悟は……悟は何をしてるんだ?引継ぎで任務に行ってたはずだろ」
「終わったから帰ってきた。超楽勝だったよ。瞬殺」
「報告書は?」
「それももう書いて提出した。だから傑のこと待ってた」
にっと白い歯を見せて笑う悟。
サングラスの奥から覗くブルートパーズの瞳が、なぜか怖く感じて目を逸らした。
今の発言を聞くと、悟は灰原がその任務で命を落としたことは聞かされていないのだろう。
"超楽勝だったよ"
"瞬殺"
その言葉が頭の中で鳴り響いて、その次に血を流す七海と上半身だけの灰原の姿が瞼の裏を掠める。
「疲れたー」
「瞬殺だったのにかい?」
「移動時間でだよ」
そうか。
上手く返答ができていたか、覚えていない。
音として空気に触れたかも、分からない。
"超楽勝だったよ"
"瞬殺"
"疲れたー"
"移動時間でだよ"
変わらない、そう、普段と変わらないのに。
何一つおかしい所はない、いつもどおりの悟のはずなのに。
どうして、今、こんなにも、悟の言葉が、針のように、見えてしまうんだろう。