第25章 懐玉
2007年、8月。
その日、悟は試したいことがあるからと、グラウンドに私と硝子を連れ出した。
そして私に消しゴム、硝子にペンを持たせ、自分に投げろと言ってきた。
訳も分からないまま、私たちは思いきり悟にそれを投げつけるが、彼に当たることなく消しゴムとペンは地面に落ちた。
「うん、いけるね」
「げ。何今の」
「術式対象の自動選択か?」
「そ」
悟は言った。
術式対象の自動選択をマニュアルからオートマにし、呪力の強弱だけでなく、質量や速度、形状などから物体の危険度を選別ができると。
そうすることで最小限のリソースで無下限呪術を"ほぼ"出しっ放しにできると。
「出しっぱなしなんて、脳が焼き切れるよ」
「自己補完の範疇で反転術式も回し続ける。いつでも新鮮な脳をお届けだ」
悟の言葉がなぜだか遠く聞こえる。
こんなに近くにいるのに。
生まれ持った才能を更に開花させた悟は、"最強"になった。
"最強"になってしまった。
任務を全て1人でこなすようになった。
1人で全てをこなせるようになってしまった。
硝子は元々危険な任務で外に出ることはない。
だから。
必然的に私も1人になることが増えた。
ああ、こんなにもつまらないなんて。
君とふざけながらも一緒にこなしていたから楽しかったのに。
ずっと隣にいたはずなのに、もう私の隣に悟はいない。
悟。
悟、どうして。
悟、どうして、私を。
悟、どうして、私を置いていったんだ。
なぜ、私を置いていってしまったんだ。
「傑、ちょっと痩せた?大丈夫か?」
……………。
「ただの夏バテさ。大丈夫」
「ソーメン食いすぎた?」
そんなわけないだろう。
本当に食事が喉を通らないだけさ。
それだけのことだよ。