第25章 懐玉
「アンタ、どっかで会ったか?」
「気にすんな、俺も苦手だ。男の名前覚えんのは」
地面が赤い雫で染まる。
加勢しようと呪霊を出し、男を飲み込ませる。
なぜ侵入できたとか、どうやって侵入したのかとかそんなこと考える余裕などなかった。
悟が怪我を負った。
その事実に、私の脳が警報を鳴らした。
だが。
「問題ない」
悟はそう言った。
術式は間に合わなかったが内臓は避け、その後呪力で強化し刃をどこにも引かせなかった、と。
「ニットのセーターに安全ピン通したみたいなもんだよ。マジで問題ない」
その言葉が、強がりのやせ我慢だと言うのはすぐに気が付いた。
だが、優先すべきは理子ちゃんだ。
時間稼ぎのために悟は男との戦闘を自ら担った。
だからその意図を私は無下にするわけにはいかない。
「油断するなよ」
「誰に言ってんだよ」
無下にはしたくなかったが。
疲労しきっているところを狙っていたんだ。
いくら悟が最強とはいえ、消耗した体力に腹部の怪我。
心配にならないわけがなかった。
だけど私はそういう言葉しかかけられなかったのに、悟はなんでもないように普段と変わらない態度でそう応えるから、少し安心してしまったんだ。