第25章 懐玉
誘拐犯は次に人質交換的な行動にでるだろう。
天内と黒井さんをトレード、または天内を殺さないと黒井さんを殺すとか。
そういう命の重さを天秤にかけてくる。
これがハンター試験なら「沈黙」が正解だ。
だけどこれはハンター試験じゃない。
俺達は常にそのどちらかの天秤を選んでいくしかない。
とは言ったものの。
「交渉の主導権は天内のいるコッチ。取引の場さえ設けられれば後は俺達でどうにでもなる。天内はこのまま高専に連れていく。硝子あたりに影武者やらせりゃいいだろ」
「ま、待て!!取引には妾も行くぞ!!まだオマエらは信用できん!!」
命を守られて置いてよく言うよ。
ここでオマエが死んだら元も子もないだろうが。
それでも天内は引き下がる。
強情で頑固。
なぜそこまで引き下がるのかわからなかったけど、次の言葉で分かってしまった。
「まだ、お別れも言ってないのに……⁉」
スカートの裾を力強く握りしめる天内の目には涙が溜まっている。
呪術師に悔いのない死はない。
とは言うが、天内は呪術師ではない。
悔いが残ったまま同化させるのは、俺の寝覚めが悪くなりそうで嫌だ。
「……その内、拉致犯から連絡がくる」
「!!」
「もしアッチの頭が予想より回って、天内を連れて行くことで黒井さんの生存率が下がるようなら、やっぱオマエは置いていく」
「分かった。それでいい」
「逆に言えば、途中でビビッて帰りたくなってもシカトするからな。覚悟しとけ」
目じりに溜まった涙を拭う天内にそう言えば、天内は一度だけしっかりと首を縦に振った。