第20章 幸福
気が立っている私を落ち着かせようと五条悟が背中をポンポンと叩いた。
たったそれだけで私の怒りは落ち着いていく。
単純すぎだろ、私。
軽く息を吸って、私は目標を見据える。
落ち着け、呪力の圧を感じろ。
私はぎゅっと鍵を握りしめ、"幸福"ではなく、花びらの中心へと鍵を投げ込む。
そして呪力をこめ、右手を回す。
「"封鎖"」
パキン、と音が鳴ると同時に。
花びらが固まり、そのまま消えていく。
「へぇ……」
嬉しそうに笑う五条悟に対して、私の額からはボダボダと大量の汗が零れ落ちた。
まだコントロールがうまくいかずに、すぐに呪力が無くなってしまう。
だけど、できた。
私の新しい術式。
私が知らなかった術式。
「へへっ……やればできんだよ……」
「可愛い生徒が頑張ったんだ。大人の僕らも頑張らなきゃね」
「そうですね。ここからは私達がお相手します」
大きな背中を見つめ、私は小さく笑う。
かっこいいじゃねえかよ。
震える膝を支えながら、二人のサポートへ回る。
残り少ない呪力で何ができるのかは分からないけど、何もしないなんてことはしたくない。
七海がナマクラで、私が破壊しきれなかった花びらを壊していく。
私もまた、鍵を投げ込み「封鎖」で花びらを昇華していく。
そして―――。
「術式反転"赫"」
無限を発散させ、"幸福"にその衝撃波がぶつかった。
"幸福"の身体は、折り重なる花びらとともに赤い炎に包まれる。
その炎ですら今まで見たことがない程美しく、おびただしい粒子が星のように輝いた。