第19章 旅行
「私が虎杖を好きになって、好きだって言ったら、あいつはすごく喜んでくれると思うし、私に一生ついてきて来ると思う。そういう奴なんだよ。馬鹿だから。そう言う馬鹿に私もなりたかった。好きに、なりたかった。でも私は、馬鹿にはなれない……」
「じゃあ、あいつは?あの馬鹿はどう思ってるんだ?」
湯呑に残るわずかな量の飲み物を見ながら私は考える。
どう思うかと、禪院真希に聞かれ。
私は言葉が出なかった。
どう思ってるか、なんて……。
殺したいし、憎いし、嫌いだし……。
そう思わなくちゃいけない風に、言い聞かせている時点で、私は私の気持ちに気が付いている。
けど、認めたくない、認められない。
黙りこくる私に、狗巻棘がティッシュをくれた。
なんでティッシュをこいつはくれたんだと思ったら、私は気が付かないうちに涙を零していた。
なんで、涙が溢れるのか。
意味がわからなくて、狗巻棘からティッシュを貰って乱暴に拭った。
静かな空間に、私の鼻を啜る音だけが響いて。
それが余計に惨めなような、本心を曝け出しているような、そんな気さえして。
鼻水を噛んで、涙を拭う私の隣に、野薔薇が座って私を抱きしめる。
「大丈夫よ。あんたはちゃんと、あいつのことが好きだよ」
と、静かに。
そう言った。
「ち、がう……。好き、じゃない!!好きなんか、じゃ、ないっ!!」
子供のように泣きじゃくって、子供のように我儘を言った。