第18章 術式
「あのさ、野薔薇」
「なによ」
「明日のこと、何か聞いてる?」
「虎杖や伏黒も来るって話?真希さんから聞いたわよ」
「あ、なら良かった」
聞いていなかったらどうしようかと思った。
金槌で殴られるかなってひやひやしたけど。
「あと、棘先輩とパンダ先輩も来るって」
「そうなのか?それは知らなかった」
「先生が旅費出してくれるなら行くでしょ」
「確かに」
現金だよな、そう言うところ。
人のこと言えないけど。
「にしても、先生に勝てるわけないのにどうしてそんな約束したのよ」
「違う。勝手に約束されただけ。女子会ってやつ、楽しみにしてたのに」
「……まあいいわ。これ一回きりじゃないし」
「え?」
「今度は正真正銘、女子会旅行よ」
またがある。
約束を破ったのに。
野薔薇は嫌な顔一つしないで、「じゃあ今度行こうね」とまた約束を交わしてくれた。
嬉しい。
すごく、嬉しい。
「私さ、こうして誰かと旅行に行くの、初めてだから。正直、明日の温泉旅行、すごい楽しみなんだよね」
「今日は随分素直ね。気持ち悪い」
「気持ち悪いって……。人が素直になってんのに」
「でも、そうやって素直な気持ちを口に出したほうがいいわよ。自分の気持ち。じゃないとどこかで変に捻じ曲がるから」
「………体験談?」
野薔薇は何も言わなかった。
けど、無言の肯定だとわかった。
口に出さなくてもわかる事もあるけど、口に出さなければわからないこともある、か。
電車の窓に映る自分の顔を見て、私はただぼんやりと流れる景色へと視線を移した。