第1章 復讐
「その親友ってどんな人?私何も知らないから、聞かせてほしい」
「いいよ。まだ時間あるしね」
「今日泊ってく?」
「いや、泊らないよ」
「そっか……」
しゅんとする私の頭を、兄は優しく撫でる。
少しの辛抱だと。
全てが終われば、ずっと一緒だと。
その言葉に頷いた。
兄は言った。
その人は呪術師最強の男であること。
学生時代、いつも一緒にふざけては先生に怒られていたこと。
喧嘩もたくさんしたけど、それ以上に楽しい事もたくさんあったと。
口癖のように二人で最強だと言っていたこと。
そんなヤンチャな時代が兄にもあったのかと思うとおかしくてクスクス笑った。
そんな私を横目で見て、兄は静かに話を続けた。
とある日、兄とその人が任された任務があった。
しかし、その任務は失敗におわった。
その結果。
親友は名実ともに「最強」となり、兄はたくさんの人を殺した。
そう言った。
過去を語る兄は過ぎ去った遠い過去に思慕の念を抱いているようにみえた。
もしかしたら兄はその人と……。
「仲直りはできないの?」
「もう、できないね」
寂しそうに笑う兄に、私は眉間に皺を寄せた。
兄がなんでこんなに追い詰められなければいけないのか。
兄だって強いのに。
むすっとする私の頬を兄は指で挟んだ。
そのせいで突き出た唇が更に突き出る。
「そういうお前は術式どうなんだ?」
「順調だよ。そこらへんの呪霊なんて相手にならないよ」
「流石私の妹だ。今度見せてもらおうかな」
「もう行くの?」
「ああ。そろそろ時間だ」
ソファから腰を上げる兄。
そんな兄の袈裟の裾を掴んだ。
「お兄ちゃん、私とも一つ約束して」
「なんだい?」
「お兄ちゃんは私が殺すから、絶対に死んじゃだめだよ。その後私も死ぬんだから」
「あはは、わかった。約束だ」
小指と小指を絡め二人だけの約束を交わし、兄は家を後にした。
その後ろ姿を見送って、私は満面の笑みを零した。