第14章 明日
なんで急に抱きしめられたのかわからない。
いつもは苗字呼びなのになんで名前で呼んだのかも。
心臓の鼓動が急速に早くなる。
だけど。
急速に早くなった私の心臓は。
虎杖の鼻を啜る音で少しずつ元の速さへと戻っていった。
泣いて、る……?
「虎杖……?」
「ごめん……。ちょっとだけ、こうさせて」
虎杖の声は涙の色が混じっていた。
ただ静かに。
音もなく涙を零す虎杖。
顔を埋めている左肩が虎杖の涙で濡れていくのがわかった。
声を出して泣けばいいのに。
私は、虎杖の頭を優しく撫でた。
まるで母親が泣いている子供をあやすように。
ぎゅっと抱きしめる力が強くなった。
そして鼻を啜る音も大きくなった。
だから、私はそっと背中に腕を回して。
虎杖が泣き止むまで、ずっと慰め続けた。
時間にして大体5分弱だろうか。
私の体を引きはがす虎杖の目は涙で真っ赤になっていた。
照れくさそうに下を向きながら「ごめん」と謝る虎杖に「謝る事、してない」と言えば「そっか」と笑った。
安置所から医務室へと戻ろうとした時、再び腕を取られた。
今度はなんだよと思っていたら、唇に柔らかいものが当たった。
キスをされていると気づくのに時間はいらない。
「……んっ、いた、……どりぃ……」
閉ざしていた唇を熱い舌で舐められ、無理やりこじ開けられる。
にゅるりと入る柔らかいものが、逃げる舌を追いかけ絡める。
なんで急にキスなんて……。
「はぁ……、っ……んぅ……」
頭と腰を掴まれているせいで逃げることもできない。
くちゅり、くちゅりと水音が響く。
死体が置かれているこの場所で、私たちは熱く深いキスを交えている。
おかしいと思いながらも、虎杖から送られる熱情に私の脳が溶かされていく。