第11章 試行
ソファから立ち上がり虎杖から離れようとすると、その腕を掴まれた。
振り返ると真剣な瞳が私の瞳を貫く。
軽い力で腕を引かれれば抵抗する事も無く、すとんと再びソファにお尻が沈んだ。
そしてふわりと香る自分のではない香りが鼻をつついた。
これは、虎杖の、匂い、だ。
筋肉質の、自分よりもはるかにデカイその身体に、私は抱きしめられていた。
「い、たどり……?」
虎杖の胸に手を当ててぐっと押すがびくともしない。
なに、なんなの。
男ってこんなにびくともしない訳?
どんだけ力の差があるんだよ、私にも筋肉寄こせ。
なんて、思考回路が今の状況から逃げたがっている。
ぎゅっと更に力が籠められ、少し苦しい。
それでも虎杖から感じる温もりは嫌いじゃない。
だから大人しく抱きしめられたままの状態で静かに目を閉じた。
「あのさ、夏油」
抱きしめられたまま、耳元で虎杖が私の名前を呼ぶ。
「なに?」
「俺、夏油が好き」
閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
何て言った?
幻聴でも聞いたのかな。
そうでなければ、確かに虎杖は私の事を好きだと言った。