第2章 恥辱
――夏油side――
扉が開く音で目が覚めた。
いつの間にか私は寝ていたらしい。
ぼんやりする視界に人影が見える。
「……お兄ちゃん?」
「残念だけど、違うよ」
「…………そっか」
額から何かが剥がれる感触がして、その後にひんやりとした何かが触れた。
それが五条悟の手だとわかったけど、身体がだるすぎて指一本動かす事ができない。
声を出したことで、乾いた喉から咳がこぼれる。
五条悟に支えられ抱き起される。
「ポカリ、飲める?」
こくんと一度だけ頷けば私の手にポカリを握らせる。
「まだ何も食べてないでしょ。お粥作るから、待ってて」
また、頭を撫でる。
やめてほしい。
頭を撫でられると、嫌でも思い出す。
兄の温もりを。
それは、弱った心にはとてもじゃないけど刺激が強すぎる。
キッチンから聞こえる包丁の音を聞きながら、私はただただ泣いていた。
どうして病気になった時、人はこんなにも弱くなってしまうのだろう。
弱いままじゃだめなのに。
強くならなきゃいけないのに。
情けない。
殺したい人間に看病されるなんて。
その人間がこんなに優しい一面を持っていたなんて。
知りたくもなかった。
知りたくないから、自分の都合のいいように捉えて、揺らぎそうになる気持ちに鍵をかけた。
そうすることでしか、私は私を守れない。
それが間違いなのか間違いではないのか。
答えはきっと。
五条悟を殺した時にわかると。
そんなふうに考えながら。