第10章 人形
地面に落ちている西崎美優の制服に彼女の死骸を包む。
横目に友人二人をみれば、泣き崩れていた。
当り前、か。
「なんで……。なんで……」
「本当は、君達に見せたくはなかったんだけど……」
西崎美優が身の上話をして時間を伸ばしたのは、彼女たちがここに来るまでの時間を稼ぎたかったからだ。
「西崎美優は、君ら二人に最期を看取って欲しかったんだろうね」
死んだ時、きっと一人だっただろうから。
でも今は大切な人たちに看取ってもらえたんだ。
彼女が自分の運命を受け入れてなお、あんなに笑顔だったのは、両親や友人たちのおかげだ。
「西崎美優はこれから事故に遭って行方不明になる。西崎美優は先に帰ると言って君達と別れた。―――いいね?」
「……はい、わかりましたって、言うと思う?」
「うん。君たちは彼女の友人だろう。"人間"として、死なせてやってくれないかな」
「……っ」
呪いとして祓われたんじゃ、可哀そうだ。
せめて人間として……。
それにしても。
彼女は酷い呪いをこの子達にかけたものだ。
「みんなに笑っててほしいだって。酷い呪いだね」
「なにが……?」
「西崎美優を思い出すたびに、君達は今日の事を思い出して泣くだろう。それでも笑っててほしいだなんて……酷いじゃないか」
「酷くない!!美優との思い出は今日の事だけじゃないもん!!」
「いっぱい笑った思い出あるし!!」
「そうなんだ。じゃあ、笑ってよ。この子のためにもさ」
「「わかってる!!」」
涙をボロボロ零しながら二人は泣いて笑った。
だけどやっぱり悲しみの方が強くて、最終的に大泣きをしていたけど。
「ありがとう。君達がいてくれてよかった」
それだけ言って、私は帳の外へと出る。
その時、足元に西崎美優に食べさせようと買ってきたであろう、クレープとタピオカが落ちていたのを見つけた。
静かにそれを拾い上げ、制服と共に包み込んだ。