第10章 人形
呪詛師と会うまでの西崎美優の生い立ちは酷いものだった。
今の生活からは考えられないほど。
呪詛師がなぜ西崎美優を作ったのかは分からない。
彼女の生い立ちに同情したのか、それとも呪骸の軍隊を作ろうとしたのか。
それは定かではないが、10年も一緒に暮らしていたのだ。
愛情がなければ、そんなことはできない。
幸せだと何度も言う彼女の言葉が良い証拠だ。
「……意味、わかんない。呪骸、とかそんなの理解できるわけないじゃん!!」
「……まぁ、そうなるよな」
「たとえ理解できたとしても、死なせるわけないじゃん!!今が幸せなんでしょ⁉お父さんとお母さんを置いていくの⁉私達を置いていくの⁉そんなのやだ!!」
「ずっと笑ってたいって言ってたじゃん!!美優には食べさせたいものとか連れていきたい場所とかまだたくさんあんだよ?死んじゃったら、なんもできないじゃん!!」
泣き叫ぶ彼女たちの声が、痛いほどわかる。
重ねてしまう。
お兄ちゃんと自分の事を。
同じことを思った。
同じ思いをさせてしまった。
それでも、私は呪術師だから。
呪いを、祓わなければ……。
「ありがとう」
西崎美優の凛とした声が二人の耳に届く。
嗚咽を漏らす二人に彼女は優しく笑って。
「きっと私がいなくなったら、お父さんもお母さんも泣いて私を捜してくれる。毎日毎日私の帰りを待っててくれる。………こんなこと言っちゃいけないけど。私、それがすごく嬉しいの」
柔らかい笑みの中。
西崎美優は一筋の涙を零した。