第10章 人形
学校に行けば、優しい友達が昨日の事を心配してくれた。
「大丈夫だった⁉」
「昨日は災難だったね」
私を心配しての言葉。
そしてあの人を悪者にするような言葉。
少しだけ心苦しい。
あの人は悪い人じゃないって言いたい。
「大丈夫。昨日はちょっと体調がよくなかっただけなの。あの人は関係ないよ」
そう言ったけど、あまり納得はしてもらえなかった。
もし今度あの人に会えるなら、怖がらずに話してみよう。
だって、あの人はとても優しい目をしていた。
私の事を思って。
お父さんやお母さん、友達と同じような目を。
そんな人が悪い人なわけ、ない。
「進路希望?」
「中二の夏なのに気が早くない?」
「だよねー。まだ何やりたいかなんてわからないっての」
昼休みの教室で、友達が切り出したのは「進路希望」なるもの。
詳しく聞けば、将来何をやりたいかなどを先生と話し合って、それにあった高校へ行くための準備だとかなんとか。
「へぇ……」
「美優って本当に忘れてるんだね」
「この前さ、美優ったら喋る自販機に喋り返してお辞儀してたんだよ‼」
「マジ⁉めっちゃウケんだけど!!」
「タピオカの存在も知らないって知った時はどこの箱入り娘だよって思ったわ」
声を出して笑う友達に私もつられて声を出して笑う。
私の知らない、分からないことに対して彼女たちは笑いながらも丁寧に教えてくれる。