第4章 対面
「思うと、"沈黙"って答えは優しいな。選ばなくていいんだから」
「……そうだな。俺達は選んでいくしかねえからな」
「そりゃ心も折れるわ」
どちらかの命を助けなければいけない。
頭に思い浮かぶは兄の事。
お兄ちゃんは非術師を皆殺しにしようとした。
それを止めるために五条悟は兄を殺した。
大勢の人の命と兄の命。
天秤にかけた時、傾くのは前者だ。
馬鹿でもわかる。
五条悟は間違った事はしていない。
それはわかっている。
分かっているけど、私にとっては兄の命の方が重かった。
だからこそ、自分の中に生まれるモヤモヤが気持ち悪い。
五条悟にとって親友の命は軽かったのかと思ってしまうから。
いや、これは単なる私の我儘に過ぎない。
五条悟は悪い事はしていない。
正しい事をした。
ちらりと横目で五条悟を見れば、私の視線に気が付いたのか五条悟も私の方へ顔を向けた。
咄嗟に視線を反らし私は手に持っていた水を口に含んだ。
"兄の命は軽かったか"
なんて聞けるはずもない。
それで「軽かった」なんて答えられた日には私はたぶんもう立ち直れない気がする。
だけど多分。
これは私の憶測だけど。
五条悟はその質問に"沈黙"するような気がした。
たった一人の親友だと兄もこいつも言っていた。
たった一人の大切な親友を殺して、それで軽かったなどと言えるほど、こいつはクズではないと、なんとなくそう思った。
ただの私の考えだけど。
そうあってほしいと思っているだけなのかもしれないけど。
でもなんとなく、そういう気がした。