第1章 1
私は貴方に癒されたかったんじゃない。
癒しを求めたのは事実だけど本当は貴方を癒したかった。
貴方はいつも他人を心配して手を差し伸べていた。
けれど貴方に手を差し伸べる人は誰もいなかった。
それが現実。
全てが結果に出ている。
誰も言い訳は出来ない。
私も…
【 浄穢 】
「無理…帰るわ…冗談抜きで当てられた…頭痛い」
久々に会った友人の硝子が見る見るうちに顔面蒼白となり私から距離を取る。
顔を合わせて直ぐの事だった。
私に“何か”が憑いているらしい。
「おーい、飲みに行くって言い出したのは硝子だろ」
「下戸は黙ってろ…
名前、悪いけど帰るわ…無理…」
「硝子大丈夫?1人で帰れる?」
「それ以上近付かないで…今ならまだ…大丈夫だから…」
心配になり一歩踏み出せば、硝子が二歩下がる。
成人式直後の駅前は晴れ着姿の男女で溢れ返っており、その中で私たちは少なからず浮いていた。
晴れ着姿の私と同い年の硝子と五条君は完全に普段着。
しかも彼はウィッグのように光沢の強い藤色がかった銀髪で、眉毛も睫毛も同じ色だ。
それが彼の地毛で目は特別な理由から透け感のある水色をしている。
しかもサングラスをしており身長は190cmくらいある。
完全に悪目立ちしていた。
「硝子ごめんね…私“そういう”の分からなくて…」
「だーから“やった”んだよ」
「…」
心底気色悪そうな表情で五条君が“オエェェ~”とリアクションをとる。
その姿は学生時代を彷彿とさせた。
彼は当時と比べるとかなり角が取れたと思う。
でもその片鱗は時々こんな感じで現れるのかもしれない。
「五条君、付き添ってあげて」
「駄目だ」
「でも…」
低い声で即拒否した五条君は硝子に近付くと彼女の頭に手を翳す。
何が起きているのかは分からないが“何かをした”という事だけは察しがついた。
私には無い力…
無い方が幸せな力…
欲しいとも思わない力…
あの人のアイデンティティ…
「ありがと…だいぶマシになった…
五条…名前の方もお願い…
ごめん…この埋め合わせは絶対にするから…」
「気にしてないよ
硝子…お大事にね」
青白い顔で踵を去っていく硝子の口から出た小さな愚痴に緊張が走る。
『…ったく…夏油の奴…余計な事しやがって…』
あぁ…彼が関係しているんだ…と…