第8章 見送り(政宗編)
しばらくして、政宗からさくらに文が届いた。
霜月の冷たい風が安土城にも吹きすさぶ頃だった。
文を開くと、そこには政宗様らしい、少し照れくさそうで、且つ、自身満々な言葉が並んでいた。
さくら(達筆だな)
文字は三成様が教えてくれたおかげで読めるようになった。今では書庫から本を引っ張り出し読んでいる。
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(文の内容)
奥州にはもう雪が降っている。
春に向けて、戦の準備に追われているところだ。
例の件、秀吉は無事か?
お前がついれていれば大丈夫だろうな。
ふと、あの秋の夜の日を思い出す。
事件も、部屋での出来事も強烈だったが、
その後、あいさつにも見送りにも来ないとは、驚かされた。
まったく大胆な女だな。
体に気をつけろよ。
今生の別れではないのだから、またいつか会えるだろう。
その時には奥州の酒を持って行く。
部屋で飲もう。
さくらが飲んだらもっと大胆になってしまうのではないか?楽しみにしているぞ。
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さくらはその文を胸に当てた。
「大胆な女だ」 その一言に、さくらはあの夜を思い出し、思わずにやけてしまった。
この文、一通でも幸せ過ぎて仕事も手につかないくらい浮ついた。
奥州の酒を土産にすると書いてあるが、政宗様が下戸なのは安土の城の人間であればほぼ全員が知っていた。
…明智様曰く、飲むと寝てしまうのだと言う。
政宗の気遣いと優しさがさくらには宝物だった。
胸の中に留めようとしてもどんどん気持ちは大きくなっていった。
さくらは文を閉じながら、またいつか会える日を静かに願い胸にしまった。
秀吉様に「どうした?お前にそんな顔させるなんて。誰からの文だ?」
秀吉は薄々気づいていたが聞きだせなかった。
さくら「秀吉様には教えません」と嫌味を言ってやった。
秀吉「なんだなんだ、反抗期か?最近やけに言うじゃないか。」
ふふふ。
それでも幸せそうなさくらを見る秀吉様の目は温かかった。
家臣たちもさくらに恋仲が出来たのか?と噂するほどだった。