第1章 出会い
その言葉に、さくらはびくっと身体を震わせた。思わず背を向け、逃げ出そうとした。だが、武将は馬から降りると、ゆっくりと彼女に歩み寄り、同じ目線にまで腰を下ろして言った。
秀吉「我が名は秀吉だ。」
顔は知らなかったが、その名は流石に知っていた。
さくら「そ、そうですか…秀吉様が何か御用ですか?」
抑揚のない声でさくらは答えた。
秀吉は軽く肩をすくめた。
秀吉「緊張せずとも良い。ただのお節介だ。」
さくらが光のない目を向ける
さくら「死のうと思い、ここまできましたが、自分では勇気が出ず死ねませんでした。不躾なお願いですが、お節介ついでにその刀で私の命を奪って頂けませんか?」
秀吉は一瞬眉をひそめたが、すぐその言葉を軽く受け流すように言った
秀吉「死にたいのなら、俺に命を預けろ。城に来い。悪いようにはせぬ」
なぜ、この男が自分に声をかけてくるのか、なぜ自分を助けようとするのか。
さくらには理由も意味もわからないままだったが次の瞬間、秀吉に手を取られて抱き上げられ馬に乗せられていた。
さくら(何この人)
馬の背中は高く、風がさくらの涙の痕を乾していく。秀吉の背からは穏やかな香りが漂っていた
さくらは初めての経験にうっとりしながら、自分の体から漂う据えた臭いにひどく恥ずかしさを感じた。長い間まともに洗うことすらできず、汗と汚れが染み込んだ衣服。
自分で自分の臭いに気づくほどだから、秀吉が不快に思わないはずがないとますます不安になり、体をなるべく離そうとした。
秀吉「コラ、あまり離れると危ないぞ」
死ぬ覚悟でいたのに、今死ぬほど恥ずかしいなんて!そんな自分を客観視したてさくらは脱力した。
(今更何を気にしているのだ…)
張りつめていた緊張が解け、秀吉の大きな背中に身を任せた。