第5章 事件
秀吉「入るぞ!政宗世話になったな。おい、さくら!今日は俺の部屋の隣の客間に引き取る、今準備してきたからな。遅くなって悪かった」
さくらは秀吉にあっさりと横向きに抱きかかえられた。
ボーっとしたまま政宗を見るとウィンクしながら手をひらひらとさせていた。
こんなに秀吉を近くで感じたのはさくらが拾われたあの夜以来だ。
同じ香の香りに包まれて、思わず首に巻いている腕の力を強くして抱きしめ返してしまった。
秀吉「おっと…しんどいか?」
心配する顔は、妹に向けるような顔だ。
さくら(さっきの政宗様の言葉は自分を安心させたかったのだと理解してはいるが、むしろ鼓舞させられた)
さくらが客間で寝ていると、隣の秀吉の部屋の行灯が点いているのか、足元の襖の端が橙色にぼうと光って見える。
さくら(こんな遅くまで、政務をなさっているのか…。)
さくらは、秀吉の様子を想像し悶々としていると、急に真っ暗になり、青白い月明かりが部屋の中を照らした。
満月だった。
もうあおいは城に居ないと聞かされ、今日は久しぶりに寝れると固く瞳を閉じようとしたが、横の部屋に秀吉がいると思うとやけに気になった。
その時、ぎっと廊下を渡る音がした。
さくらの胸騒ぎは止まらない、確信があった。
(明智様…!政宗様…!)
心の中で二人呼び叫んだが届くはずもない。
(私がやるしかない。)
まだ体調も完全では無かったが、政宗にかけられた言葉がさくらをつき動かした。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
政宗「信長様がもし死ぬことがあれば、この世を統治するのは秀吉だろう。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
さくらは飛び起きて、壁に括られ、飾ってあった刀をひっぺがし、鞘から出し襖をあけた。
そこにはさくらが絶対に会いたくない顔があった。