第5章 事件
さくらはまだ意識がぼんやりする中で夢と現実の境目を行き来していた。
夢の中に秀吉の姿がある、「ありがとう」とさくらに礼を言いながら優しく髪を撫でてくれる様子がまるで現実のように生々しかった。
しかし、目が覚めると、秀吉ではなく政宗がそこにいた。
なんだ夢か…。
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さくら「政宗様…!」
さくらは勢いよく上体を起こした。
さくら「申し訳ありません、このような姿で、女中の分際で…。」
政宗 「目の前で女が困っていたら誰であろうと俺は助けるけどな。しかも秀吉が目をかけている大事な女なんだろう。ましてや倒れたんだ気にかけて当然だろ?」
熱に浮かされているのか…さくらの鼓動が早くなる。
自分の尊厳を踏みにじり人以下で扱った奴もいれば、大切にして優しい言葉をかけてくれる人もいると秀吉や政宗に会ってさくらは知った。
政宗が近づいてきて手でさくらの額の熱を測った
政宗の美しい顔が近づいて胸のドキドキが伝わるのでは?とさくらは心配になった。
あんなに男は穢れて気持ち悪いと思っていたのに、 秀吉様だけではなく、政宗様にも触れられて嫌だという気持ちが湧かなかった。
政宗 「家康の薬が効いているな。安心しろ。あおいはもういない。お前がもう気に病む事は何もない」
さくら「…っ政宗様、なぜそれを」
政宗「光秀が動いた。俺も事情を知っているだけだ。秀吉の事だ。そこまで案ずることもないかと思ったが、お前にしてみたら、恩人を友人が殺すかもしれないとひやひやした毎日を送っていたのだろう…」
政宗はふっと微笑んで上体をゆっくりと支えながら布団に体をおろし、掛け布団を持ち上げ寝かしつけてくれた。
さくら「政宗様…もういないというのはこの世に…という意味でしょうか?」
さくらは消え入りそうな声で聞いた。
政宗「いや、暇を出したそうだ。まあ城を出たら最後二度と入れまい。」
さくらは一瞬ホッとしたが、たった一人の友人の居場所を奪ってしまったと気が落ちた。
私に挨拶もせずに、私が密告したとも知らずに、この城を去ったのだろうか…。