第3章 裏切りの香り
光秀「秀吉が心配なのは本心だろうが、それをなぜ俺に言う?」
さくら「秀吉様は大名討伐に備え、準備に入っておられます。つまらぬ家臣のいざこざで余計な気負いをさせたくありません。」
この人の前では嘘は禁物だ。
さくらは重要な事は言わず、本当のことだけを伝える事に専念した。
光秀「フッ。なかなかの返しだが、俺に相談を持ち掛けたんだ、誤魔化しは通用せぬぞ。先ほどの質問の意図が分からぬお前ではないだろう。」
さくらは動揺した。
その瞬間、光秀はさくらの前にずいと身を乗り出し、静かにもう一度聞いた。
さくら(明智様の顔が近すぎる…怖い)
光秀「分かりやすく言ってやる。俺に相談を持ち掛けてるという事は秀吉に脅威が迫っている事をお前は知っているのではないか?」
さくらは観念した。
光秀に隠し事は通じないと悟った。
さくら「遠回りな言い方をして申し訳ありません。実は誰が関わっているかを知っております。ですが確証がありません。ですので明智様に相談に来ました」
光秀「なるほど、裏をとって欲しくて来たのだな…。お前の身辺を洗えば、かばっている仲の者などすぐに絞られるだろう。家臣の中にと言ったが、お前は男嫌いだ。庇うならば、お前の身近な女中だろう。小さないざこざにあまり手間をかけたくない。」
しまった…
さくらは心の中で思った。
あおいのことを隠し通すことは、やはりできなかったか。
明智様はさらに続けた。「怪しいという女中の身辺調査を行う。知っている情報を全てよこせ。秀吉には知らせぬし、何も分からぬまま処分はしない。」
光秀はさくらの先の先まで読んで欲しい答えをくれた。
秀吉を守るためとさくらが腹を括る。
さくら「あおいという女中です…」小さな声で光秀に告げた。
光秀「分かった。さくらと言ったな。下がって良い。分かり次第、お前の耳にも入れてやる。」
鋭い目を細め、私を静かに追い払った。
さくらは安堵の気持ちと罪悪感とで揺れていた。
さくら(あおいっ…私の勘違いであって)