第3章 裏切りの香り
手ぬぐいで巻かれた短刀には名前が掘られたていた。形見であろうことが想像出来た。
これまで感じていた違和感が、一気に点と点を結び、線になり衝撃が走った。
(あおいは秀吉様に恨みを持って殺そうとしているのでは?)
――そう直感で感じた。
信長でもなく、光秀でもなく、秀吉に恨みを持ってると思ったのは、恐らくそうであって欲しくないとさくらが強く思っていたからだ。
あおいはさくらが拾われる半年前からこの城の女中として働いている。
あおいとさくらが話があったのは、明るく場をとりもつ華やかさだけではなく、あおいの中に深い喪失感があったからだ。
あおいの生い立ちにさくらが触れたことはないが身寄りはいないと言っていた。
あおいは口も堅かったし、さくらは余計に信用してしまっていた。
彼女がどんな恨みを抱いているのかはわからない。
しかし、短刀を隠し持っているという事実だけで、何か計画が動いているのではと疑心暗鬼になった。
さくらの心は激しく揺れ動いたが、動機を詮索している余裕はなかった。
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何とかあおいを思いとどまらせなければならない。
だが、下手に問い詰めたりしてあおいが動いても困る。
秀吉様に危害が及ぶなど、絶対にあってはならない。万が一計画を実行に移そうとする日がわかれば、その時は自分が動く。
さくらは普段通りあおいに接することにした。
思い違いや勘違いであるという微かな望みに託し、以前と同じように振るまいながら、さくらは、とにかくあおいの行動の一部始終を監視した。
さくらはあおいが台所で働く時も、その動向から片時も目を離せなくなった。
夜も、あおいが寝るまで寝れなかった。
短刀を持っているからといって、それを使うとは限らない。毒殺の可能性もある。だからこそ、彼女の行動一つひとつが気になり、注意深く監視する必要があった。
政宗が居る時は台所をほぼ仕切ってたので、安心だったが、あおいに疑いの目を向けながら二月程が経った。