第1章 開口一番
私の気配に気づいたのか彼は私に一瞬強張った表情をしたも、すぐに満面の笑みをたたえ隣にいた親友の背をバンバン叩いた。
「こんばんは…」
「マリアさーん!!こんばんはー!今日一人?めっずらしい!これから僕とお茶しに行きませんか?エレガントでホットでデンジャラスな大人の夜―!」
「紀田君、その人も知り合い?」
大げさに手を取り腰を折り曲げていた正臣は、その手を離さずして背を起こした。
「この人はマリアさん。つっても日本語喋るから。あ、こいつは俺の幼馴染です、今日引越してきたばっかの。」
「りゅ、竜ヶ峰帝人です。」
特に何の反応も示さず、帝人と名乗った少年をただ見つめていた。その視線に耐えかねたのか、頬を赤くし少年は視線を逸らす。
「おいおいおい帝人―!なに照れてんだよ!マリアさんは、俺の初恋、の人なんだから!」
「えぇ?!そ、そうなの?!」
頬に手を当て恥ずかしいとばかりに体をくねらせる正臣と驚きを隠せずにいる帝人。ただ私はじっと見つめているだけで、少々困ったように眉を下げた。
「さてと、今夜のご予定は?もし時間が開いてたら僕と一緒に…」
「仕事があるから。また今度、あの美味しいケーキ屋さん連れてって。」
「もっちろんです!それじゃぁ、そのときは俺の愛のメッセージ聞いてください。」
ばいばい、と手を振り少し笑いかけてその場を後にする。
正臣のことは嫌いじゃないけど、無意識に首元のチョーカーに手が行きそっと指を滑らせた。