第8章 だいじょーぶだよ。
「泣いてた件はもう大丈夫なの?」
私は、蜂楽の肩に頭を乗せた。
手をたくさん触ってきたから、寂しいのかな、と思って。
「……また泣いてるの、見られちゃったなぁ。」
蜂楽もそれに応えて、頬を私の頭に寄せた。
「……夢ちゃんにだけは話すね。俺の中にいる“かいぶつ”のコト。」
「“かいぶつ”?」
「サッカーしてる時だけね、そいつが出てきて言うんだ。“ゴールを奪え”、“もっと踊れ”って。」
“かいぶつ”を語る蜂楽の眼は、他のサッカー部の人達とはまるで違うものだった。
いつもの綺麗な黄色の眼から、影の濃い黒い眼に変わる。
サッカーに対しての貪欲さ。
いや、それすらも超えてるような、ゾクッとする怖さをも孕んだ眼。
「今日の俺のパスミス、めっちゃ怒られたの見た?」
「うん…。」
「あのパスは、“かいぶつ”に勝つために必要なパスだったんだ。俺にとっては、ミスなんかじゃない。」
蜂楽の中に、“かいぶつ”は本当に存在してるんだ。
「今のチームのヤツの中には“かいぶつ”はいない。
でも、凄いヤツは心に“かいぶつ”を飼ってるって、俺は信じてる。それがストライカーの証なんだ。」
イマジネーションの枠すら喰い壊しそうなくらいの…
規格外の大物が。