第1章 おねがい
「こいびと!!??カレシってこと!!??」
「嫌だよねっ!?ごめん忘れて!!」
「嫌なわけあるかい!!こーんな美人さんに初対面でコクられるなんて、俺って罪な男ってやつ?にゃはは♪すげー!告白なんて初めてー!」
「違うの、聞いて…?」
「なぁに?」
「!?」
急激に距離を詰められてドキッとする。
そのせいで、より背の高さに意識が向く。
制服の上からでも感じる男子ならではの筋肉の厚み、みたいな迫力。
制服の袖を腕まくりしてるから、そういうのも至近距離でみんな伝わってくる。
「ねぇ……夢ちゃん?」
今度は身を屈めて、顔を覗き込まれる。
親しい男子なんていない私には、かなりの緊張感だ。
「えっと……“彼氏のフリ”でいいんだけど。」
彼はゆっくりと一歩ずつ、また私との距離を縮める。
接近してくる圧から自然と後退りすると、またゆっくりとその距離を縮めてくる。
「えっ、なに?“フリ”だけでいいんだぁ?」
「う、うん……ダメ、だった……?」
「えっ?ダメじゃないよ、全然。ダメじゃないけどさぁ……。」
温度の無い声と無表情で迫ってくる。
正直、怖かった。
後退りしていくと、ついに背中が壁にぶつかる。
彼はすかさず両手で壁ドンして私を囲み、ペロッと舌を出して自分の唇を舐めた。
「ひっ。」
ドンッという壁の音が恐怖心を煽って、抑えようとした悲鳴が出てしまう。
自分の直感に従った私が間違っていた。
何か地雷を踏んでしまった?
プライドを傷つけた?
もしかして……“あの時”みたいに───
あるトラウマが、頭をよぎった。
撤回して謝ろうとしていたその時。