第7章 自由の才能
そう語る蝶野くんも、あの時は取り乱してた。
常に冷静沈着な蝶野くんを、あの瞬間、それ程までに追い込んでしまったのかと思うと…
やっぱり申し訳なかったなと感じる。
「あの……この間は言い過ぎて、本当にごめ
「僕に無いのは、ああいう“衝動性”なんだと思い知りました。」
蝶野くんは、私の謝罪を遮った。
「今、蜂楽(アイツ)のプレーを観てても“衝動性”を感じます。
インスピレーションで動き、イマジネーションを体現するテクニックで、サッカーの形にしている。
僕には逆立ちしても得られない“才能”です。」
あの蝶野くんが、あそこまでケンカ売った蜂楽を褒めている。
「まぁただの脳筋ヤローとも取れますが。」
プライドの高い蝶野くんから出た台詞とは思えなかった。
「あの日の蜂楽の行動は“衝動性”そのものでした。
先輩はアイツの、失敗を恐れない自由な生き方に、魅了されてるんですよね?」
そう。
自由な蜂楽は、とても魅力的だ。
こんなふうに楽しみたい、何事もそう思わせてくれた。
誰もが大人になると忘れゆくことを…
子供だけが持てる儚い希望を…
思い出させてくれた人。
「半月ほど考えて…今アイツのサッカー観て…やっと腑に落ちました。
僕、蜜浦先輩のこと…諦めます。」
「蝶野くん……。」
「先輩、強くなりましたよね。蜂楽みたいに。」
ポーカーフェイスの蝶野くんは、軽く微笑んで言った。
「ツッコミも秀逸になりましたね。」
「…それは、必要に迫られて、かな。」
冷静に分析して思考した、彼だけが導き出せた答えだった。