第7章 自由の才能
6月初旬にある、インターハイ県予選…の、決勝戦。
県内トップ2校まで上り詰めるだけで称賛だ。
ついに、試合の日曜日が来た。
前もって蜂楽からキックオフの時間やら会場やらを、スマホに送ってもらった。
出かける準備をしている間、何度も怖くなった。
日曜朝番のエンタメ情報が耳障りで、テレビを消した。
淡々と、こなそう。
着ていく服が決まらなくて、結局制服にした。
電車とバスで郊外の競技場まで行くから、ローファーじゃなくスニーカーを選んだ。
両親は、今日も当然のように不在だ。
ここのところ一人暮らし状態の私。
帰ってきたとしても、着替えとかの荷物を持っていくだけ。
持ち帰った着替えを洗濯するのだけは、私の仕事だ。
移動中、ずっとドキドキしていた。
蝉川を見た自分の反応への恐怖と、
蜂楽に魅せられる期待への高揚感。
そんな相反する感情が交差する。
降りるバス停が近付くにつれて、つり革を持つ手が冷たくなって震える。
「(だいじょーぶだよ…だいじょーぶだよ…。)」
少しでも恐怖が勝ってしまったら、蜂楽が私によく言ってくれる魔法の言葉を心の中で唱えていた。
蜂楽の、少し高いけどちゃんと男子の声で脳内再生して…
恐怖心を安心に上書きするように、丁寧に唱えた。