第36章 蜂蜜の愛
少し前まで嫌というほど貼り付いてた作り笑いが、なんでできない?
蜂楽と出逢って泣き虫になっただけじゃなく、
気遣いでする演技のやり方まで忘れてしまった。
この溢れる熱い涙だって…蜂楽が取り戻してくれた、私を構築するエレメントだ。
でも、お願い……今だけでいい。
この“哀(エモ)”を……壊したい───。
「……その涙、反則っしょ。」
「っ、めぐっ……」
「ズルいや、夢。」
困り果てた私を、蜂楽は抱き締めた。
項垂れて私の首元に顔を埋め、表情を隠す。
条件反射レベルに背中へ手を回して、つるっとした制服の質感を確かめるように触った。
ブレザーに寄ったシワですら、愛おしい。
軽くギュッとすると、すぐに筋肉の硬さに辿り着く。
素肌のままで重なった、昨夜を思い出してしまう。
「っ、廻。いって、ら……」
「夢……」
「……いっ、て……」
“いってらっしゃい”
こんなにもシンプルで無害な言葉を飲み込んでしまう。
これを言えば、しばらく帰って来ないような気がして。
私はなんて───脆いんだ。
「まだ時間ある。
もうちょいこのまま…くっついてよ?」
ゼロ距離で感じる、愛おしい人の愛おしいにおい。
外ハネの毛先が顔に当たると、くすぐったい。
「……廻……?」
「はりゃ?なんで、かな……?」
頬がなにかで濡れる。
自分の涙のせいだけじゃない。
「っ、涙、勝手に…。俺、夢の前ではっ…
もう、泣かないって、決めたのにっ…。」