第36章 蜂蜜の愛
JFUの最寄り駅に着いて、徒歩で向かった。
入れ替わった冬の空気が耳と頬を冷やしても、
恋人繋ぎされた手だけは熱かった。
「(もうすぐ到着しちゃう…。)」
マップアプリ上の私達は、着実にJFUのビルに近付いていく。
このアイコンがジワジワ動くのを“エスパーわざ”で止めてやりたいと思った。
───嫌だ……もっと、まだまだ。
廻と一緒にいたいよ───。
JFUのビル周辺には、見たことのない色々な制服に身を包んだ男子達でいっぱいだった。
「ほぇー。みんな同じかな?こんなにいたんだ。」
「そ、だね……。」
思っていたよりたくさんの“強化指定選手”。
蜂楽の意外な身長や筋肉質すら小柄に見えてしまうくらい、どこかからやって来たサッカー選手達は大きい人が目立つ。
女子なんて連れて歩いてるのは、蜂楽だけ。
付き添いなんてもっともらしい理由つけて……
本当は蜂楽と一秒でも長くいたかった。
自分の弱さが……惨めになる。
「ほんじゃ、行ってくるね♪」
「ぁ……めぐ、る……」
繋いでいた手をパッと解かれて……焦る。
モヤモヤ渦巻いていた不安が……露見する。
“いってらっしゃい!”
曇りのない、満面の笑み。
躊躇のない、快活な壮行。
理想の私は、脳内イメージだけに留められる。
私は廻の彼女だから。
ミサンガに込めた廻の夢を、心から応援したいから。
笑顔で見送らなきゃ、いけないのに───
「……っ、廻ぅ……」
───悲しい涙なんか、いらないのに。