第31章 契約破棄
「夢ちゃーん!!オーブン入れたー!?早くやろー♪」
「…あ、うん!ちょっと待って…!」
庭から元気な声で呼ばれてはっとする。
止まってしまった手をまた動かして、予熱したオーブンにケーキをセットした。
入試を受けた美大の選考結果は封書でも来るけど、届くのは実家のほう。
ネットで配信されるのを見るほうが早いから、大学のサイトをチェックするのはこの頃の日課だ。
“今日こそはアップしてて”と祈りながら、毎日アクセスしていた。
その癖を、今日も今日とて繰り返す。
「(今日こそは……)」
“また明日かな”……これもまた、ある種の癖だ。
「……あっ!?」
それはさらりと裏切られて、“◯年度入学試験 オンライン合格発表”と書かれたリンクを見つけてしまい心臓が跳ねる。
「廻っ…どうしよ、どうしよ…!!ねぇ来てっ!?」
「夢ちゃん、なぁに?」
「ごっ、合格発表!!アップされてる…!!」
「ぬおっ!!マジ!?」
靴を脱いで、窓からドタバタ家に入ってくる蜂楽。
───悔いはない。
みんなにも言った、自分にも散々言い聞かせてきた。
なのに、どうして……
スマホを持つ手が、震えるんだろう───?
「だいじょーぶだよ。」
大きくて温かい、“太陽”の手に包まれる。
私を何度も助けてくれた、魔法の言葉を添えて。
「廻、いつもありがとう。だいじょーぶだよね。」
リンクをタップした。