第30章 裏切り
「……だって、仕方ないじゃない……。」
───は?
この期に及んで、まだ……
まだ、何か隠してるの……?
「“あの人”……狂ってるんだから。」
母はせきを切ったように話し始めた。
もう、耳を塞ぎたくなった。
「……私と一緒になりたくて、離婚の既成事実つくるためにこの家のメンタル崩壊させようとして……
最初はアンタを尾行して怖がらせてただけだったのに、あのコと一緒に帰るようになって面白がっちゃって…。それがエスカレートして、自転車だってパンクさせて…。
アナタの県議事務所に無言電話かけまくったり脅迫状送ってたのもそう。対応に追われてあたふたするアナタ見て、“あの人”楽しんでたの…!」
何かの目的で尾けられてると思ってたのは……
母と不倫相手の仲を深めるための、戯事……?
なに、これ……?
こんなの酷すぎる……イカれてる。
「私にはどうすることも出来なかったの!!
私が下手なこと言うと、逆手に取って脅してきたり!!
こっちもウンザリなのっ……!!」
父も私も……言葉が出ない。
蜂楽と一緒に帰る時だけは、尾行の気配を感じなくなったなんて思ってた。
私……バカだ。
蜂楽に心奪われて……全く気付いてなかっただけだ。
本当はいつも、見られてたんだ。
嘲笑されてたんだ。
ウチを壊した愚かな他人に。
ウチを売った下衆な母に。
こんなことって……ある───?